エッセー
遅咲きのカンナの花が咲いている頃でした。多摩川に続くという緑道を歩いているうちに公園に出ました。
公園の入り口に小さな小屋と温室のような囲いがあり、中には野常がいっぱい生えていました。音こそ聞こえませんが囲いの中にきれいな水がチョロチョロ流れています。
その水は浅潮をつくりながら公園のまん中にある池へ流れこんているのでした。
小屋の戸口に「ホタル養殖中です」という看板がぶら下げてありました。
ボク達が見た温室みたいな囲いの中でホタルを養殖してるというわけです。
小屋の中にいた研究員のおじさんが、「ホタルの幼虫を見せてあげよう」と声をかけてくれました。
「えーっホタルの幼虫っていたっけ?」ボクは思わず大きな声を出してしまいました。
夏の夜、田舎の川辺で黄色の注意信号のようにピカピカ点滅しながら飛んでいるところをホウキやウチワですくうようにして捕えた情景が浮かんできます。
ヤミの中を飛び交うホタルの光は幻想的で気高く、神様のおつかいのようにも思いました。
研究員のおじさんは、水槽の中から小さな虫をとりだして、重々しく言いました。
「これがホタルの幼虫です」
それはボク達が釣りの餌に使うゴカイに足が生えたような虫でした。
「こんな虫ケラがあのホタルに生れかわるなんて考えられないでしょう?」という目でおじさんはボク達の顔をのぞき込みます。ボク達はただうなずいてみせるだけでした。
その後、幼虫の餌になる貝の話など聞いてもサッパリうわの空でしたが……。
「この幼虫はもちろん餌の貝もきれいな水の中でしか育ちません」というところだけは「やっぱり」と力いっぱいうなずいたのでした。
喜田川 昌之