2.お絵かきの部屋

階段の下で遊ぶ子どもたちにせがまれチョークで絵を描かいて見せてから数日がたった。この日、いきなりトントンと入り口のドアをたたく音がした。『新聞の勧誘かナ?』と思いながらドアを開けると、急な階段の、手すりにつかまって見上げている四人の子どもの姿があった。
「入っていい?」先頭の男の子が言った。下で遊んでいた連中がボクの部屋を探検に来たのだった。仕事場にしている部屋は四畳半。スケッチブックや画用紙の山を見つけて「お絵かき」がしたいという。「お母さんたちが心配するから、そのことを伝えておいで」と言うと、みんな大きくうなずいて階段を降りて行った。クレパスをかかえて、数分後に戻ってきたところを見ると、すぐ近くの子どもたちのようだった。おもいおもいに絵を描きはじめる。自画像やテレビに登場するキャラクターの絵を描く子。まるでわが家で描いているようなスタイルで畳に腹ばいになって描く子もいる。先日通りがかりに見て「うまいナ」といったボクの言葉を思い出しているのだろう。描き上げた絵をほこらしげに見せてくれる。ボクはいつの間にか子どもたちの仲間の一員にひきずり込まれてしまっていた。
描き上げた作品を家の人に見せたくてウズウズしているようだ。はじけるように仕事場を飛び出した四人が階段を降りきったところで、はずみをつけてわが家へとかけ出す気配がドアのむこうから伝わってきた。
夏休みも終わろうとしているあの日の出来事は、「変な大人の部屋をのぞいてやろう」というちょっとした子どもたちの冒険だったのだろうが、ボクにとつては、この部屋での四人の子らとの出会いが、やがて二十数年間にわたる子どもたちとの交流に発展していこうとはこの時、知るよしもなかった。
喜田川 昌之