エッセー
5.きれいな花やなぁ
あの花はいったいどんな花だったのだろう。いまだにわからない。ツユクサだったのかタンポポだったのか。
ボクは小学校低学年。祖母は当時60歳半ば、「わたしのおじいさんは藤堂藩の槍の指南」が口癖の気丈な人だった。月に1回のお墓参りを欠かさなかった。朝から帯の端を口にくわえて着物を着込み、髪を撫で付けて小柄ながらシャンとして出かけていた。その日はたまたま、ボクもくっついて行くことになった。お墓まで500Mほど。セカセカと歩いていたが突然立ち止まり、道端の野花を見て「きれいな花やなあ」と、ひとり言のようにつぶやいていた。ボクは道端に咲く花を見たはずだが、花の風情は記憶にない。ただ、その時「ナンデきれいなのか」不思議に思ったことは、はっきりと覚えている。
ボクが「わらべ絵」一わらべ心を描いた作品一をはじめた頃。子どもの頃に見た光景を思い出しているうちに、祖母のつぶやいた「きれいな花やなあ」という言葉が何度もうかんできた。そしてあの花は一体どんな花だったのか、ツユクサだったのか、タンポポだったのか、道端に咲く野の花を見るたびに、少しだけ考えこんでしまうのだった。そして当時の祖母の年をとっくに越えてしまった今も、祖母が感動してつぶやいたひと言が、ボクの心の中に生きつづけている。
喜田川 昌之