
この教室では、ふだん親にも学校や園でも見せない子どもの姿がある。保育園へ通っているヨシトは冒険心がつよく活発に動きまわるタイプである。「ミホコちゃん、ぼくホジョとれたんだ」ミホコは「そう」となま返事をしながら自分の絵に集中している。「ほんとにホジョとれたんだから」ヨシトは「スゴイね」とかいってほしかったのだ。あきらめて「センセイ!ホジョ知ってる?」「自転車の後ろにある小さな車のことだよナ」「とれてよかったナ」ヨシトは大きくうなずいてみせた。ミホコは絵に夢中だ。
この日は店先で見つけたスイカを持ち込んだ。もちろん描き終えたところで、みんなでかぶりつくことになっている。
人数分に切り分け配る。タネをいきなりツメでほじり出す子もいる。紙皿を画用紙の上に置いてエンピツで円を描く。線にそってハサミで切りぬく。円形の紙を半分に折って机に置くと半円のスイカができる。それに色をつける。
スイカをほじってタネを出した子は、穴のあいたところに影をつけている。包丁を入れ
た時に切られたタネの断面はまっ白。目の前のスイカをみつめながら描きすすむ。
窓が二方にあるので時々風がからかうように子どもたちの顔をなでる。外のふろ屋の煙突から出ていた煙の色が白からグレーにかわっている。
描き終えた子からスイカにかぶりつく。水道の水で冷やしたスイカはなまぬるくなってはいるが、みんなで食べるスイカの味は格別だ。
壁に「忘れもの注意」と書いた短冊があるのに、この日の忘れものはまるまったクツ下。机の下にころがっていた。おそらく、自転車のホジョがとれたと心をはずませているヨシトのくつ下にちがいない。
喜田川 昌之