喜田川 昌之 わらべ絵館

サンデーコラム
2026年2月22日

10.夏休みを前に

 

 ある晩、青年が下駄を鳴らして階段をのぼり、わが部屋を訪ねてきた。岩手県水沢の出身で作家志望のバンカラらしく「腰に手ぬぐいぶるさげて高校に通ってました」といつてグイとビールをあけた。

 子どもたちが来るようになってからアパートの住人ともあいさつを交わすようになっていた。お絵かきに来ているミツの母親は岩手県宮古の出身。バンカラは時々ミツの所に遊びに来るミツの従兄だった。浪人を重ねる予備校生はフリーの生活にあこがれているようで、進路についての相談らしかったが当時、ボクは人の一生について若者に語れる資格もなく、やっぱり子どもたちとの対話の方が性に合っていることを思い知らされたのだった。

 七月の初めのこと。近所に住んでいる母親が教室の噂を聞いてやって来た「夏休みの宿題の絵を指導してほしい」ということもあって本人を連れて一時から見学。絵を描くことが大好きなトモが仲間に入ることとなった。

 八月は、お絵かき教室は休みにする。子どもたちには親子で田舎へ出かけたり、都内を出て自然とのふれあいを体験させてほしいという思いからだ。もちろん八月は月謝はいただかないことにしている。

 手すりに咲くオクラの花は朝方咲いて午後はねじれてしぼんでしまうので子どもに見せたりニオイをかがせたりは無理。

 夏休みに入る直前の月曜日がきた。近くの商店街にある花屋の店先で見つけた「ヒマワリの花」を買った。オクラの花とは対照的で大きく張り出して多少いばっているように見える。子どもたちの心は、ちから強いこの花にひきつけられるようだ。宿題に困っていたトモが意欲をみせて描き上げた。

午後一時からのクラスはバンカラの従妹のミツやトモの入室で満員になった。

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