喜田川 昌之 わらべ絵館

サンデーコラム
2026年3月1日

11.おさかな飛んだ

 

 店先に二匹のトビウオがならんでいた。近くの商店街で、いつもハチ巻き姿で胸あてつきのゴム長をはいて水まきをしている人がいる。その前を通りがかった時だった。なつかしくもあり、ハネのついた姿をこれから子どもたちに見せてやろうと思った。ボクがはじめてトビウオ見た時、ハネをのばしてみると傘のようにひろがったことを思い出していた。

 皿の上にのせたトビウオを見たとたん子どもたちの目が輝いた。人さし指で押しては肩をすくめていたトモが、そのうちみんなにつられて大胆にさわっている。

 透き通ったキレイなハネは背中ではなく、胸ビレが長くのびたものだということも、さわっているうちに発見する。ハネをひろげたトビウオをもち上げ腕をのばし、立ち上がるケン。 

 ただ見ているだけでなく、さわったり臭いをかいだりするうち絵に描いてみたくる。 さらに「目をつむってさわってみよう」というと、おそるおそるという手つきになり、「目をあけて」の言葉をまっていたかのように男の子たちはトビウオのエラや口を開いたり閉じたり、より大胆になる。サカナ臭さが部屋中にただよっているはずなのに、時間が経つと気にならなくなる。

 ボクは、ほとんど子どもたちの目の前で手本のように描いて見せたりはしない。子どもたちは、手本通りに描こうとして、目の前のモノを見なくなってしまうからである。

 人が描いた絵を写しとる模写した作品からは感動が伝わってこない。トビウオをさわってかいた子のほとんどが、ちゅうちょなくハネから描きはじめる。「どこから描いたらいいの?」と助けを求める子はひとりもいないのだ。

喜田川 昌之

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