喜田川 昌之 わらべ絵館

サンデーコラム
2026年4月12日

17.クリスマス 

「サンタクロースはぜったいにいるんだもん」大きな声を張りあげている。幼稚園児のミホコは、そうさけんで今にも泣き出しそうに口をへの字にまげている。

「サンタクロースなんてほんとうはいないんだよ」という同じ歳の男の子ヨシト。ほかの子たちも「そうだよ そうだよ」といってはやしたてる。

「ゼッタイにいるもん」ミホコはそういって涙をこらえながら絵を描いている。ひげのサンタクロースやモミの木のかざり、大きなクリスマスケーキを描きすすめているうちに、いつものミホコにもどっていた。

 みんなが帰ったあと一人になったミホコにきいてみた。「サンタさんにナニをもらった?」「ままごとセットもらったよ」うちはお店だから「はやくきたの」お店の休みの日にあわせてサンタさんが来るらしい。

「うちは煙突ないからトイレの窓をあけておいたの」

「ほんとうはいないんだよ」とはやしたてたみんなにもその話をきかせたかったにちがいない。

 ミホコはみんなより一枚余ぶんに描いたクリスマスの絵をかかえて階段を一つひとつふみしめながらおりていった。

 トイレの窓をあけてサンタさんをまつミホコをお父さんお母さんたちは目をほそめてうなづきあって見ている絵がうかんでくる。そういえば「パパとママきのうも新宿で飲んできたんだよ」そんな報告をするミホコの家はおじいさんとおばあさんもいっしょにいるそうな。彼女はほのぼのとした家庭ですくすくと素直に育っている様子がうかがえる。

 まち角にジングルベルのメロディーが流れはじめた。人はなんとなく軽やかな足どりで歩いているようにみえる。大売出しや福引のチラシがとび交う。歳末の風景が巡ってきた。

喜田川 昌之

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