喜田川 昌之 わらべ絵館

サンデーコラム
2026年2月1日

7.バッティング

 

 ユカコが仲間に入ってきた。親の方針で保育園に通わせてなかった。これまで同年代の子との交流がなかったせいか、気おくれしてなかなか会話には入れそうにもなかった。

 「新しい友だちのユカコちゃんだよ」だけの紹介ですませる。あえて特別扱いはしない。「ユカコがこれからどうやって会話に入っていくか」試練なのだ。

 天真爛漫な女の子ミホコは「出前がきたの」といいながらねんどでおすしをつくっている。「ユカコちゃんはナニ?」「ギョウザ」マグロとかタマゴではなく「ギョウザ」の注文に驚く様子もなくそれらしい形を作っている。緊張ぎみだったユカコはホットした表情を浮かべた。先ずはクリアー。

 それから2~3週が過ぎた頃、近くで中華の店を営んでいる父親によると「娘は週一回のお絵かきが楽しみで待ち遠しいみたいです」もの静かで、あまり要求を口にしない娘に遊び友だちがいないことを案じていた父親は、ことのほか満足気だった。

 ヨシト「ポパイみたいにつよくなるにはホウレンソウたべるんだよ」

ミホコ「えいようまんてん」

ユカコ「かんづめの中にホウレンソウ入ってるんだよ」

おやつのせんべいをたべながら会話がはずむ。ミホコは幼稚園の歌を聴かせている。その時ユカコが「ミホコちゃん きょうあそばない?」「うん、あそぼうね」初めて、二人であそぶ約束をしたようだった。

 自由画でユカコは「おひめさま」を力づよく表現。ミホコは歩いている女の子。手の表現がたしかだった。ヨシトは大好きな車を大きく描いた。

 それぞれ描き上がった絵をもって立ち上がる。その時、ユカコがいった。「ミホコちゃんあたしとあそぶていってたじゃない」涙をこらえながら小さな声でせめている。どうやらヨシトとこれから遊ぶつもりらしい。バッティングだ。ついボクは口をはさんでしまった。「約束は守るんだよ」ミホコは口をへの字に曲げて「だってヨシト君とあそびたいんだもん」ユカコの試練はつづくのだった。ガンバレユカコ。

喜田川 昌之

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