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喜田川昌之 わらべ絵館



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一キッネに化かされた話―

 キツネに化かされた八十歳のおばあさんがいた。昭和二十年代前半。当時八十歳といえば隣近所を見渡してもまれな存在だつた。大柄な体格で、昼間も寝間着姿のまんま杖をついて尻を落として立っているおばあさんの姿は印象的だった。
 晩秋の頃だつた。「おアサやんがゆんべキツネにだまされやんした」という。ニュースは、たちまち隣組中に広がった。ボクが小学校の低学年の頃である。噂によると、キツネにだまされたおばあさんは、一晩中家に帰ってこなかった。家族で方々探しまわったところ、辻の鼻と呼んでいる川の中で寝ていた。辻の鼻は夏休みにボクらが泳いでいる場所である。かんがい用の水路なので収穫のあと冬にかけて水無川となる。おばあさんは無事家族の元に戻りメデタシ、メデタシとう話であった。大人たちが「キツネにだまされた」という話を面白がるわけでもなく真顔で話しているのを聞いた子供の間では「やっぱりキツネは人をだますんや」というはなしがひろまった。ボクが高学年になってから、おアサやんは亡くなった。後になってから思うと、実はおばあさんは認知症になって徘徊していたということなのだろう。当時は認知症という言葉は聞かされなかったが「ボケた」という言葉は使われていた。冗談に使う程度であり、「うちの年寄りがボケてしまって」とはあまり声にしないようであった。「キツネに化かされてしもて」という表現は第三者がきくと、とてもユーモラスに聞こえるけれど。当時の大人が「真顔」でそう話していたのは、おばあさくと家族への「同情心からであり、やがてわが家族にも訪れるであろ「ボケ」を思ってのことだったようにもとれる。


                         まさゆきお絵かき日記







                       
 

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