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喜田川昌之 わらべ絵館



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「 出会い 」
 腰の痛みを押して島根県津和野の宿に着いた。ヘトヘトだった。
その日は益田の小学校で開いた「お絵描き教室」を終えた後、スタッフと分かれて一人で宿にはいった。
 「安野光雅センセーもここに泊られたんですよ」仲居さんは分厚い座布団と座椅子を準備してくれていた。床の間を背に殿様気分になるのも気恥ずかしかったが、脇息にヒジをつくと痛みもやや落ち着いて来た。
 「センセーは津和野に帰られるといつもこの部屋で食事をなさるんです。」
その時は必ずなつかしい塩むすびを用意しておくという。
 「このあたりの農家は大きな塩むすびをもって田んぼへでるんですよ。」
 部屋の障子の上の長押に目をやる。書の額があった。
 「心不競」 コレだ!と思った。
 ボクは生来、「絵は楽しんで描くくもの」と思い続けてきた。この字を見たとたん、かねてより会ってみたいと思っていた人に偶然出会った気分になった。それは祖父が俳画をかく様子や、絵や書の軸を架け替える姿を見て育ったからかもしれない。
 小学校でも楽しんで描いていたが、当時の通知表を見ると図工の評価はよくない。写真のような絵を描かされていた。4年生の写生では、いきなりボクの絵の一部を先生が描き直してしまった。当時はおおむねその指導法が通用していたのだった。
  大人になってからはそっくりに描くデッサンを見ると、ヘトヘトになることがある。そっくりに描くことに心をうばわれていると直感し自分までヘトヘトになる。 
 「心不競」は競うことに心までうばわれてはならないという。
 書は桂月とあった。大町桂月は高知県生まれの随筆家。この夜
腰の痛みをかかえながらも、この三文字を眺めている時、心もち身が軽くなるのをおぼえた。



                         まさゆきお絵かき日記


      

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